
機械部品や精密機器、医療器具などの洗浄において、細部の汚れまでしっかり落とせる洗浄方法として注目されているのが「超音波洗浄機」です。人の手では落としきれない微細な汚れを取り除けることから、多くの業界で活用が進んでいます。そこで、今回は超音波洗浄機の仕組みや洗浄原理、選び方のポイントについてわかりやすく解説します。
超音波洗浄機とは
超音波洗浄機とは、水や専用の洗浄液に対象物を浸し、そこに超音波を照射することで微細な汚れを除去する装置です。超音波とは、人の耳では聞こえないほど高い周波数の音波のことで、通常は20kHz(キロヘルツ)以上の音を指します。超音波洗浄機は、この超音波を水中に伝播させることで、液体内部に特殊な現象を発生させてその力で汚れを落とすというメカニズムを持っています。
さらに、超音波洗浄では「超音波の物理的な力」と「洗浄液の化学作用」を組み合わせることで、よりしっかりと汚れを落とせるようになっています。
通常のブラシ洗浄や洗浄液だけでは取れない、複雑な構造の製品の汚れも、超音波によって発生する細かな振動や気泡の力で、汚れをはがしたり、細かく砕いたりすることで、きれいに洗い流せるのです。
そのため、工業製品だけではなく眼鏡や貴金属の洗浄など、さまざまな分野で導入が進んでいます。また、超音波洗浄は対象物に物理的な接触をしないため、繊細な部品や傷がつきやすい素材の洗浄にも適しています。
使用する洗浄液も素材や用途に応じて変更できるため、幅広い場面での活用が期待されている洗浄方法です。
超音波洗浄機の洗浄の原理
超音波洗浄の効果は、おもに「キャビテーション」「直進流」「粒子加速度」の3つの要素によって生み出されます。なかでも、重要な役割を果たしているのがキャビテーション現象です。キャビテーションとは、超音波が液体中に伝わる際に発生する極微小な気泡の生成と崩壊の現象を指します。この気泡は、超音波の圧力変化により一瞬で生じ、一瞬で破裂します。破裂時には非常に高い圧力と温度が局所的に発生し、それが対象物の表面に付着した汚れをはがし取る力となるのです。
また、直進流と呼ばれる超音波によって生じる液体の流れがあることで、汚れがとどまらずに常に洗浄液が張りこみ洗浄効果を高めています。
そして、粒子加速度による細かい振動エネルギーも、洗浄効果を高める要素の一つです。これらの相乗効果により、超音波洗浄機は複雑な形状や細かな隙間の汚れまでしっかりと除去することが可能となっています。
洗浄の効果を高めるためには、超音波の周波数や出力、液体の温度や種類、洗浄時間など、複数の要因を適切に調整する必要があります。
たとえば、周波数が低い(20~40kHz)とキャビテーションが強くなり、大きな汚れや頑固な油分に効果的です。一方、高周波(80kHz以上)はキャビテーションが弱まるものの、精密な洗浄が求められる対象には向いています。
洗浄物に合わせた超音波洗浄機の選び方
超音波洗浄機を選ぶ際は、洗浄したい対象物の素材や構造、そして洗浄の目的に応じて機種や仕様を選定することが重要です。たとえば、電子基板や医療器具など、繊細で細かな構造をもつ対象物には、高周波(60~120kHz)タイプの超音波洗浄機が適しています。これは、洗浄力はマイルドでありながら、微細な部分まで均一に超音波が行き渡るため、過度な洗浄による破損を防ぎつつ高い洗浄効果が得られるためです。
一方で、金属部品や油汚れのひどい部材など、比較的丈夫な対象物には20~40kHzといった低めの周波数を採用したタイプが有効です。キャビテーションの衝撃力が強く、しつこい汚れを効率的に除去できます。
さらに、洗浄槽のサイズや容量も重要な選定基準です。洗浄対象物のサイズに対して洗浄槽が小さすぎると、効率的に洗浄できないばかりか、洗浄ムラが発生する可能性もあります。洗浄対象物を完全に沈められるサイズを確保することが基本です。
また、複数の超音波振動子を搭載した「多周波タイプ」の洗浄機であれば、汚れの種類や対象物に応じて適切な周波数に切り替えられるため、より柔軟な運用が可能でしょう。
近年では、省エネ性や操作性、メンテナンス性も重視されています。タッチパネルで操作できるタイプや、環境に最適動作を自動で設定する機能をもつ製品など、よりユーザーに配慮した設計の超音波洗浄機も増えています。